ご あ い さ つ

ご あ い さ つ

三 五 弘 之*

はじめに

 去る6月6日、八王子市において開催されました無機マテリアル学会第70回総会において、坂井悦郎先生の後を受けて本学会の会長に選任されました。身に余る光栄と責任の重さに身が引き締まる思いです。覚悟をもって職責を全うする所存ですので、会員各位のご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。本学会は昭和25年の石膏研究会の発足から明年で70年を迎える伝統と実績のある学会で、私は昭和57年の村上恵一会長(第3代)のときに入会致しました。残念なことに永井彰一郎会長(初代)や中原万次郎会長(第2代)とは面識のない世代です。その昭和から平成を経て、「令和」という新しい時代を迎えるこの時期に本学会の運営に携わらせていただくことになりました。本稿では、ごあいさつとあわせて本学会が取り組むべき課題と所信を述べさせていただきます。

学会の近況と会員サービスにおける課題

 最近5年間の本学会誌掲載の内容別原稿数(一部)を図1に示します(図省略)。一部というのは、図1に分類した内容以外の原稿も掲載されていることを意味します。本学会が関わっている主な無機マテリアル(無機材料)でみますと、学会発足時からの「セッコウ」および「石灰」が各々21編と28編、学会誌の副題に明記されている「セメント」が45編、同じく「地球環境の科学」に関連した環境・再資源化に関するものはこの5年間に3回の環境関連の特集号が組まれていたことからやや多い70編となっています。これらの数字と当該分野の研究者数を加味しますと、本学会が看板に掲げている分野はかろうじてカバーされているのではないかと思います。他方、それらの原稿数は特別維持会員や維持会員各位に提供するサービスの目安にもなります。学会誌の看板に偽りはないと申しましたものの、掲載記事の内容やそもそも原稿数自体が満足できるものであるか否かは提供される側の判断になります。さまざまな要因があると思いますが、維持会員の数は2017年に63社から61社に減少し、2018年には62社に戻しましたが、2019年3月には再び61社に減少しました。産学連携に関しては、当時の上村克郎名誉会長(第5代会長)からの要請により産業界から須藤永一郎会長(第9代)を選出して強化され、その後も吉澤慎太郎会長(第12代)、三浦啓一会長(第15代)にその精神は引き継がれ、広告企業の拡大など多大なる成果を挙げることができました。これに対して、本学会は産業界の抱える問題や学会・大学等に求めているものを十分に認識していたでしょうか。これを認識しないかぎり、維持会員の脱会をくい止めることはできないと思います。創立70周年を機会として、企業、大学および学会との交流会(座談会)などを企画して忌憚のない意見交換を行うことも一考かと思います。

 次に、正会員の確保に関連した課題について述べたいと思います。まず、正会員数は月毎に若干の凸凹はありますが、5月を基準にして比較しますと2015年の661名から2018年の629名まで毎年漸減し、2019年(3月時点、621名)までその傾向は変わりません。現在の社会状況や人口構成などを鑑みますと、会員確保は同僚の他学協会同様に厳しい状況にあると思いますが、本学会では若手研究者を対象とした講演奨励賞の創設により秋季の学術講演会が盛況を博している好例もあり、新たな会員サービスの提供によりわずかでもその減少をくい止めることができないでしょうか。そのサービスの筆頭として挙げたいのが学会誌のアーカイブ化の推進です。現在、創刊号(「石膏」誌)から2007年までの学術記事を全文公開しておりますがそれ以降はストップした状態です。現代のネットワークを利用した情報化社会では、研究情報がアーカイブ化されているか否かで学会の魅力は大きく左右されると思います。本学会の研究成果がどれほど利用されているかの情報はもちあわせておりませんが、ホームページの閲覧数が年々増加していることをみると本学会への関心は高まっていると考えてよいのではないでしょうか。ただし、最新版まで公開することに関しては意見の分かれるところかと思います。一方、あまり古い情報となるとその価値は半減することも事実です。本件の最大の問題点は費用の捻出にあると思いますが、まずは追加掲載の頻度(毎号、毎年、10年毎など)や分量と費用の関係を早急に調査したいと思います。

 次の会員サービスとして、「セメント・セッコウ・石灰ハンドブック(1995)」の改訂を挙げたいと思います。本ハンドブックは「石膏石灰便覧(1961)」からはじまり、「石膏石灰ハンドブック(1972)」と版を重ねてまいりました。会員サービスの一つというよりは、本学会の存在意義にもかかわる重要な課題であると思いますが、荒井康夫会長(第6代)が自ら編集委員長として改訂して以来24年を数えてしまいました。統計的なデータはもとより、新素材、新規プロセスおよび新規キャラクタリゼーション技術の解説など、改訂すべき点は多々あろうかと思います。ただし、本作業は各所に相当のご負担をおかけすることになりますので、先ずは関係部署とご相談させて頂きます。

喫緊の課題としての海外交流活動

 本学会は海外交流活動として1997年から2000年にかけて3回の海外視察を行いました。第1回は台湾を訪れてセメントプラントや化学工場などを見学、第2回は韓国の陶磁器の窯場を見学するとともに韓国建築界の関係者と交流し情報交換を図りました。第3回はタイ王国にて天然セッコウ鉱床の露天掘り現場やドロマイト粉砕工場、超高層鉄骨造ツインタワーの工事現場を見学し、各々実りある成果を挙げました。しかしながら、それらは文字通り海外視察を行うに留まっていました。その後、国際会議開催の必要性を鈴木喬会長(第8代)が指摘され、第4回国際学術交流シンポジウムが2002年に韓国の漢陽大学で開催されました。この会議は韓国と日本の2か国によるジョイントセミナー形式のもので、私も若手メンバーの一員として参加させていただきました。今思いますと、このシンポジウムがその後の本学会主催の本格的な国際会議(International Symposium on Inorganic and Environmental Materials, 略称ISIEM)開催の土台作りになったのではないかと思います。そのISIEMは2004年、2013年および2018年に本学会と現地組織との共催で開かれ、回を重ねるごとに盛会となり、昨年開催されたISIEM 2018では参加国数が21か国に及びました。また、会議開催後に出版される論文は3回とも英文誌に掲載されています。21世紀は環境世紀のはじまりといわれておりISIEMの開催はその波に乗ったのかもしれませんが、文字通り国際会議の名に恥じないものに成長したといえます。国際会議の開催は本学会の存在価値を広く世界に知らしめるだけでなく、それに参加する会員各位の研究にたいするモチベーションアップやスキルアップにも直接的につながります。次のISIEM開催に手を挙げている候補地(国)があると聞いております。ISIEMの継続的開催にご尽力を賜りました板谷清司会長(第13代)に感謝申し上げるとともに、この機を逃さぬように次世代の準備特別委員会の立ち上げを喫緊の課題としてとりあげたいと思います。

おわりに

 歴代会長が指摘されているように、セッコウ、石灰、セメントなどのカルシウム関連産業はすでに成熟産業の域に達しており、爆発的な成長は見込まれないかもしれません。しかしながら、現在の生活水準を維持したまま過ごしていくとしてもこれらの産業は必須であり、さらにそれらの産業を支える技術や学術的情報の継承の一端は本学会が担っています。すなわち、本学会の存在意義は凡そ70年を経過した現在も衰えていないと断言することができます。本学会を継続的に発展させるため、引き続き会員各位のご協力をお願い申し上げます。最後に、永井彰一郎初代会長の「石膏研究会機関誌『石膏』の発刊に際して」の結びの言葉をアレンジして本文をしめたいと思います。

 「本会は無機マテリアルに関する理論並びに応用の進歩を図り併せてその知識の普及と会員相互の親睦に資する」という目的達成に資したいと思う次第である。(原文は斜体の「無機マテリアル」が「石膏」になります)

*本会会長 日本大学理工学部一般教育教室教授
博士(工学)