無機マテリアル学会の継続的な発展のために

無機マテリアル学会の継続的な発展のために

坂井悦郎*

はじめに

 三浦啓一会長の後任として、本年6月より会長を拝命することとなりました。歴代の会長をはじめとする学会関係者の努力により本学会の活発な活動が継続されて来ております。微力ながら本学会のさらなる継続的な発展に誠心誠意努力する所存ですのでよろしくお願い申し上げます。

 本学会は日本学術会議(旧学術研究会議)内に設置された窯業原料協議会石膏分科会が母体となり、石膏・石灰・セメント及び広くこれらと関連する新素材の研究ならびにその利用と技術の向上をはかり,学術の振興および産業の発展を寄与することを目的に1950年に設立された、長い歴史を有する学会です。石灰、セッコウおよびセメントなど基幹材料に関しては、産官学の連携は非常に重要で、本学会は、産業界とは密接な関連を有しています。セッコウ、石灰、セメントなどを中心とする無機質材料に関係する多数の研究者、技術者や、多くの関係団体、企業の参加をえて、世界的視野に立って無機質材料に関係する学術の振興、および産業の発展のための研究・技術開発に尽力してきております。また、近年では地球環境の科学もキーワードとして、安全で、無公害、地球に優しい無機質系の環境材料技術に関する研究や情報提供にも努めています。無機マテリアル学会は、それぞれの分野の方々の立場の違いを乗り越えて「無機質材料」、「環境」をキーワードに、同じ方向性にベクトルを合わせて相互理解、相互研鑚、相互協力を実施できる場を提供しています。

学術活動

 昨年(2015)のJ. Soc. Inorganic Materials, Japanに掲載された論文としては、多孔材料、無機材料の合成法、機能性薄膜、光触媒、特殊ガラス、無機粒子の形態制御など無機質新素材に関するものと、基幹材料である石灰・セッコウ・セメントに関連するものとしては、人工軽量骨材、水酸化カルシウムの脱水、廃セッコウの利用、フライアッシュや下水汚泥焼却灰の有効利用などが報告されています。その他に、基幹材料に関連しては、昨年度の解説などに取り上げられ、セメント関連では経済産業省の補助事業して、実施された革新的セメント製造プロセス基盤技術開発に関連して、詳細な解説がなされています。また、セッコウと石灰については講座において、それぞれの産業の現状と今後の展望が述べられており、関連する産業界からの情報発信も行われています。なお、セメント関連の投稿論文が少ないのは、他に多くの関連学協会があることとも関連していると思われます。特に材料の使用者が多数所属する学協会、例えば日本コンクリート工学会などへの投稿が多く見られるのが現状です。本来、本学会はセッコウや漆喰などの使用者の参加も多かったように思いますので、これらの点に関しては検討する余地はあるかもしれません。

 近年、必ずしも適切なこととは思われませんが、大学の成果として論文の掲載された雑誌のインパクトファクターなどを重視する傾向もあるため、日本の学協会でも和文誌から欧文誌としている論文誌が多くなっています。従って、本学会は和文で投稿できることを特徴として、広く民間企業からの投稿をお願いすることも必要かもしれません。また、解説や講座等、広く会員へのサービスも重要ですので、和文誌としての重要性はあるように思われますので、それを特徴として行くことも必要かもしれません。

 学術講演会に関して、表に昨年度の第132、第133および今回の第134回の学術講演会の講演内容を分類してまとめました。この分類には筆者の独断も含まれていますので、必ずしも適切ではないかもしれません。現状は大学院生などの講演が主体となり、民間企業の技術者・研究者からの発表が少なく、大学からの講演が主体であるために基幹材料よりは新素材に関連する発表が多くなっています。基幹材料の民間の技術者・研究者の講演を増やすにはどうするかなどの検討は、今後も必要と思われます。講演奨励賞なども設定されており、若手技術者・研究者の奨励にもなっていると思いますので、もう少し、民間からの積極的な参加をお願いできればと思います。

 なお、J-Stageなどでの雑誌の公開は現在では引用や読者を増やすためにも必要と思われます。この点は片山恵一前々会長も指摘されていますが、経費の問題もあるので慎重な議論が必要でしょう。大学ではスペースチャージの議論なども出ており雑誌を保有できるスペースの確保などは、将来に向かって、さらに難しくなっていくと推察されますので、早急な検討が必要かと思われます。財政化健全特別委員会などの設置より、経費削減などに取り組み経費削減策が確認されていますが、なお、編集業務全般の経費削減について、未検討となっており、引き続き財政の顕在化に不可欠との提案がなされています。これら矛盾することとなりますので、方向を定める必要があるように思います。

 国際化と関連しては、本学会は2004年にオランダセラミックス協会(NKV)との共催でオランダ・アイントホーヘンにおいてInternational Symposium on Inorganic and Environmental Materials (ISIEM) 2004を、2013年にはフランス・レンヌ第1大学との共催でレンヌにおいてISIEM 2013を開催し、2018年6月にはISIEM 2018をベルギー・ゲント大学において開催する予定です。セッコウ、石灰、セメント、地球環境に関わる無機材料や環境・エネルギー材料を中心として最新の研究や新しいテクノロジーを持ち寄り、議論する場となることを期待しております。2004は参加者が232名(演題244件)、2013は285名(演題254件) でした。前回、前々回が盛況だったので、ぜひ2018も多くの方にご参加いただければと思っています。このように国際会議開催など国際化への対応はしていますが、アジア地域への貢献は必ずしも十分とはいえません。これからの発展が望まれ、本学会の対象としている無機質材料や地球環境が重要となると思われるアジア地域での展開なども、将来のためには考える必要があるかもしれません。

 1995年に発刊された「セメント・セッコウ・石灰ハンドブック」ですが、非常に役立って来ましたが、内容的には見直しをするのかどうかの検討も必要かもしれません。地球環境や環境材料など一部は取り込まれていますが、これで十分であるかどうかとか、また、例えばセメントについては、製造に関しては、ここ20年では副産物・廃棄物の原燃料への利用が大幅に進み、1995年には270kg/t程度であったものが、2015年には475kg/tにまで増加しています。また、熱力学的なデータや相平衡計算のフリーソフトも充実して来ています。さらに、新素材として取り上げた高強度セメントなども大幅に変革しています。また、高炉セメントでは低発熱高炉セメントが実用されるなど、新たな材料も利用されています。逆に特殊セメントとされていた低熱セメント(高ビーライトセメント)は現状では、JISも制定され低熱ポルトランドセメントとして利用され、必ずしも新素材といえないものも記述されており、内容の検討が必要と思われます。もちろん出版事業として成立するかどうかが最も重要で、経費のかかる話ですので、J. Soc. Inorganic Materials, Japanの講座等として補足して行くなども含めた慎重な議論が必要でしょう。

学会の維持

 無機マテリアル学会も会員の確保に関しては、いずれの学協会とも同様に非常に厳しい状況です。無機マテリアル学会の会員数は、一般会員が650名程度、学生会員が130名程度(毎年入れ替わり)をここ数年推移しております。また、三浦啓一前会長が指摘しているように会員の高齢化が進んでいることも問題です。先生方の努力により、学生会員については、年度初めは増加しますが、多くの学生は卒業とともに脱会しているようです。本学会の関連企業に就職する学生はそれほど多くない現状ですので、現在、民間企業に在職中の若手技術者・研究者の入会をお願いする必要もあるように思います。学術講演会では講演奨励賞などの制度もありますが、さらに学術講演会や講習会など若手技術者・研究者に役立つものを今後も継続的に企画していく必要があると思います。

 特別維持会員の(社)石膏ボード工業会、(社)セメント協会、日本石灰協会および日本焼石膏工業組合の4団体、維持会員61社には、大変お世話になっており、本学会を維持するために重要な支援をいただいており、引き続きの支援をお願いするしだいであります。それに答えるためにも、セッコウ、石灰、セメント、地球環境に関わる無機材料や環境・エネルギー材料を中心として学術・技術面での新しい情報発信などを充実させることが大切で、継続的に行う必要があると思います。また、生産技術賞は、維持会員の社員の中から現場で苦労され、優れた業績を上げた方々が中心に受賞されており、本学会としては学術賞と同様に非常に重要と考えています。科学も大切ですが、産業として成立するためには、工学もさらに大切で、この賞は、その意味でも大きな価値があるのではないでしょうか。なお、広告収入の増加を目指して努力をしてきておりますが、なかなか達成できておりません。維持会員の増加も含めて、簡単なことではありませんが、対策を検討する必要があるように思われます。

おわりに

 いずれにしましても、学協会をとりまく環境は非常に厳しい状況にあり、会員の増加や広告収入の増加は、歴代の会長も積極的に取り組んできた課題ですが、実現はそう容易ではありません。皆様方の支援により、無機マテリアル学会の継続的な発展に尽力したいと考えておりますので、よろしく御支援のほどお願い致します。

*東京工業大学物質理工学院材料系特任教授
工学博士,技術士(化学)