ご あ い さ つ

ご あ い さ つ

山 本 岳 史*

はじめに

 本年6月より三五弘之会長の後を受けまして,無機マテリアル学会の会長を拝命することになりました.1950年(昭和25)の本学会発足以来,これまで産学双方より私を含めて18名の会長が選出されてまいりましたが,2003年(平成15)に須藤永一郎会長が産業界から初めて会長に就任して以来,吉澤愼太郎会長,三浦啓一会長に次いで4人目となります.このような大役が私に務まるのか甚だ不安でもありますが,これからも産学連携という重要な意義のもと,皆様のご協力を賜りながら職責を全うできるよう尽力してまいりますので,よろしくお願い申し上げます.

建設業界と石膏ボード業界の現状について

 昨年度におけるわが国の経済は,新型コロナウィルス感染症の拡散というかつて経験のない事象により非常に大きな混乱に陥りました.病床不足により緊急事態宣言が発令され,医療関係だけでなく飲食業界など多くの企業・業界が打撃を受け,日本だけでなく世界中の経済活動が停滞してしまいました.企業は在宅勤務へのシフトを急がされ,出張などの移動制限,海外渡航の禁止など交渉関係の停滞による対面コミュニケーションの不足や,原材料の調達・品質の確保などに影響がおよび,コスト上昇への対応を迫られると共に,社員やその家族の感染対応など,コロナ関連に割かれる労力は多大なものになっています.しかしその一方で,在宅勤務やリモートワークが急加速的に進み,時差出勤や交代勤務など働き方を変えることによって自身の業務を見直す機会をもてたという事に関しては,唯一良かった点と言えるかも知れません.
 建設業界の状況をご説明しますと,2020年(1月〜12月)の新設住宅着工戸数が81万5340戸(前年同期比9.9%減)と4年連続の減少となり,種別では持家が26万1088戸(同9.6%減)と昨年の増加から再びの減少,貸家が30万6753戸(同10.4%減)と3年連続の減少,分譲住宅が24万268戸(同10.2%減)と6年ぶりの減少,また分譲住宅のうちマンションが10万7884戸(同8.4%減)と昨年の増加から再びの減少,一戸建住宅が13万753戸(同11.4%減)と5年ぶりの減少となり,持家,貸家,分譲住宅すべてで減少したため全体が減少となりました.2020年の石膏ボード販売量もそれに追従する形で458,862千uと,対前年91.0%に減少しております.緊急事態宣言による経済の停滞は政府の諸施策により回復しつつあるとはいえ,今年の住宅着工戸数も昨年と同様に81万戸が予想されており,変異ウィルスによる感染の再拡大などによって先行き不透明な状態が続き,設備投資などに慎重な企業も多いことから,回復にはまだかなりの時間を要すると思われます.
 そんな中,「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という理念のもと,「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が2016年から2030年の15年間で達成すべき世界共通の目標として2015年9月に国連で開催された持続可能な開発サミットにて国連加盟の全193?国によって採択されました.発展途上国・先進国と国の状況を問わず,地球上のほぼすべての国が採択した国際目標に,世界各国がSDGsの期限である15年間で,全17項目の目標達成に向けて行動していくことで,2030年以降も“持続可能な社会"を実現させ続けることをSDGsはめざしており,経済が落ち込んでいるいま,明るい未来をめざすという目標をもつことは非常に重要な事であると言えます.

学会の状況について

 昨年は本学会創立70周年であり,また丁度オリンピックの開催とも重なったこともあって,本来であれば記念式典や懇親会を催して盛大に祝うべきであったのですが,新型コロナウィルス感染症の影響で式典関係をオリンピックと共に1年先送りとしておりましたところ,今年も未曽有の災厄は沈静化するどころか変異種も現れて更に勢力を強めており,第四波にまで及ぶような蔓延状況を呈している状況で,残念ながら式典関係の中止を余儀なくされました.また緊急事態宣言の発令によって企業の活動や大学の研究活動も滞り,学術講演会も連続して中止になるなど,学会への影響も大きなものとなっております.ただしようやく医療従事者や高齢者へのワクチン接種も始まり,外出や出張を控えるなどの不便な措置の緩和にも希望がもてるようになってきました.企業活動や研究なども少しずつ元に戻り,光明が見えて来ております.今後もコロナと闘いながら,リモートなどのツールを最大限に活用しながら学会の運営活性化を進めてまいりますのでご協力いただけると幸いです.

学会の課題

  本学会の会員構成は言うまでもなく,大学関係と石膏・石灰・セメントなどの関係企業によって成り立っておりますが,表1の通り(表省略)10年前に比べて正会員は16%減,学生会員も49%減と大きく減少しております.会員数の減少は財政状況に直結することから,学会活動の維持と質の向上において非常に重要な問題であり,歴代の会長も憂慮されておりましたが,大きな課題の一つです.現在の財務状況から見ますと,諸先輩方の多大な努力により,会員数の減少にも関わらず若干の黒字を維持できてはおりますが,会員増員に向けて更に皆様のお力をお借りできればと考えております.

図1に示しましたのは(図省略),過去4年間のHP閲覧数推移です.こちらも年々微減しているように見えますが,2018年の増加は,ベルギー・ゲント大学において開催されましたISIEM2018(International Symposium on Inorganic and Environmental Materials 2018)の影響であり,やはりこのような国際会議参加をはじめとした魅力ある取り組みなどが新会員の増員や学会の活性化にもつながると考えますので,これらの活動を継続・推進して参りたいと存じます.

おわりに

 諸先輩方が築いてこられた71年の歴史を持つ本学会にとって,最重要事業であり最大の魅力でもある学術講演会ですが,コロナ禍では思うような開催ができない状況です.これからの学会を担っていく企業の若手会員や学生会員の皆さんも楽しみにしている行事であり,コミュニケーションが不足している昨今,対面による講演会実施を早く再開できればと願います.全国民へのワクチン接種が為されるまでパンデミックの終息はむずかしいかも知れず,終息したとしても経済への影響は今後数年にわたって続くことになるでしょう.しかし,何とかこの困難な状況を乗り切り,皆さんと無機マテリアル学会の活性を取り戻して行ければと考えますので,これまで以上に会員の皆様の御支援,御鞭撻をたまわりたく,何卒宜しくお願い申し上げます.


*本会会長 吉野石膏葛Z術研究所長